あんまりこういうツッコミばかりもどうかと思いつつ・・・

前回のエントリに関して検索している時に酷いものを見つけてしまったので取り上げておきます。山谷えり子さんの講演会の内容です。全体を通して酷いのですが、とりあえず最初に見つけて気になった部分のみ取り上げます。

いろんな国の憲法には、「家族は保護、尊重されるべきである」という条項があるのに、日本の憲法にはありません。

いろんな国って具体的にどのへんの国なんでしょうか? 私はこの辺りのことにはまったく無知なので分かりませんが、とりあえず山谷さんの大好きなアメリカの合衆国憲法ではそんな記述は見つけられませんでした。それともヨーロッパの方でしょうか? もしそうだとしても、ヨーロッパでは同性婚や同性パートナー制度を認める国が大半で、山谷さんたちが想定する「家族」とはかなり食い違っている気がするのですが。それともアジア? 中東方面? アフリカ?

水戸市の条例では、家事、育児などについて、「従来女性が担ってきた無償労働に対し、必要性に応じて経済評価を与えること」という一文が入っています。
それは、「わたし気がつかなかったわ。朝五時からお弁当作って、うちのお父ちゃんに早朝勤務、一時間千円請求しなきゃ」というようなことです。

こんなこと言う人いるんでですか? 少なくとも私の周りでは見たことありません。フェミニストで家事労働の経済的評価等についてもよく知っている人も多いですが。家事労働の経済評価と聞いて真っ先にこういうことを想像してしまう人って、普段から損得勘定で物事考えてるんじゃないか、などと疑ってしまいます。

また、家族の項に、「祖母は孫を家族と考えていても、孫は祖母を家族と考えない場合もあるだろう。犬や猫のペットを大切な家族の一員と考える人もある」なんていう記述まであります!  おばあちゃんたち怒ってますよ。「わたしらイヌ、ネコ以下か」って。

こんなおばあちゃんたちいるん(ry。 あ、もしかして山谷さんご本人のことですか? だったら単数形にしてもらわないと。そもそもこの記述は「誰を家族とみなすかは個人によって異なる」という事実について記述しただけであって、上か下かなんてことではありません。こういう記述を読んで真っ先にこういうことを想像してしまう人って、普段から格下格上だけで物事判断してるんじゃないか、などと疑ってしまいます。

夜十時まで毎日、延長保育が必要な女の人は、それほど多くはいません。八時頃家に帰ってきても、テレビを見ながらビールでも飲んで、十時になったら、そろそろ保育園に迎えに行く。そうすると子供はもう寝ているわけです。取材でそんな母と子の後ろ姿を見ながら、これでいいのかなあ、と思いました。

夜八時に帰ってきてテレビみながらビール飲んでその後保育園に迎えにいく人は、延長保育が必要な女の人よりずっとずっと少ないと思います。

 「児童虐待防止法」の改正案が、数日前に通りました。それは、不十分でさびしい法律です。(中略)「まず家族を大事にする」ということが全然入っていません。これでは、五年後、十年後ますます虐待が増えるばかりです。英国のブレア首相は、「子供は、お父さんとお母さんのそろった健全な家庭で育ててください」とおっしゃっています。なぜならば同棲家庭では、ちゃんとした親の家庭の七十三倍、子供が致命的虐待に遭うからです。

ブレアのこの発言について検索してみましたが見つけられませんでした。なのでこのような発言が実際にあったのか、どのような文脈で発せられたのか確認することはできませんでした。ただ、山谷さんは「なぜならば〜からです」という風に、まるで虐待についてのデータをもとにブレアが上の発言をしたかのように述べていますが、この73倍云々というデータは、ヘリテージ財団というアメリカの保守系シンクタンクの研究をもとにしているようです。なので、ブレアがこのデータをもとに発言したのではないと推測しています(この発言についてご存知の方いらっしゃいましたら教えていただけると大変ありがたいですm(_ _)m)。
ちなみにブレアの発言をおいておくとして、なおかつデータの数値が正しいとしても、山谷さんの発言には問題アリアリです。ヘリテージ財団の研究内容については、日本語訳はキャッシュしか残っていませんでしたので、図表については英語版を。日本語訳は「73倍 虐待 ヘリテージ」で検索してキャッシュをみてみてください(キャッシュへのリンクの仕方が分からないorz)。(追記:日本語版キャッシュこちらです。id:june_tさんありがとうございましたm(_ _)m。)
まず、山谷さんは「なぜならば同棲家庭では、ちゃんとした親の家庭の七十三倍、子供が致命的虐待に遭うからです」といってます。「生物学的両親が結婚している」ケースを「ちゃんとした」と表現してしまう言葉のセンスもどうかと思いますが、それはともかくこれは過去のデータ(1982〜88年のイギリス)では「生物学的両親が結婚している」ケースに比べて「生物学的母親が男性と同棲している」場合は73倍の虐待が「発生した」(なおかつ「報告された」)ことを示すものであって、確率的に「虐待にあう」というようなものではありません。そもそも、「同棲家庭では、ちゃんとした親の家庭の七十三倍、子供が致命的虐待に遭」っているからといって、なんだというのでしょうか。家族の価値を強調して同棲ではなく結婚を選ぶようにすれば、虐待がなくなるとでもいいたいのでしょうか。実はこの研究では「収入と虐待の関係」(英語版表4)「収入とひとり親家庭の子どもの数および身体的虐待の関係」(英語版表5)も示されています。収入と虐待の数は明らかに相関があります。また、ひとり親家庭でも収入が多い場合にはひとり親家庭の減少の仕方以上に虐待の数は少なくなっています。また、日本語版の方では「教育水準と家族構成の関係」についても言及されていますが、それによると同棲家庭や未婚家庭の親は学歴が低い傾向がみられるようです。だとしたら、問題は家族構成ではなく貧困であり、また経済格差にもとづく教育水準の格差(および格差の再生産)のはずです(ついでにいうと貧困家庭の場合はケースワーカーとかによって虐待が発見されやすいという可能性もあるかも)。そういうデータが示されているにもかかわらず(これらは海外のデータではありますが)、「制度の見直しより、心の改革を」ってお前はバカかと。そういえば数年前にも、父親等からの性的虐待に関するビデオを小学校で使用したことを「不適切」などと取り上げたバカ新聞、バカ議員がいました。「女性教諭は児童らに性的虐待を受けた際に拒否するよう指導していたという」ってものすごく適切じゃないですか。拒否せずに受け入れろ、我慢しろってか、バカ。ちなみに土屋たかゆき東京都議は議会で「父親、兄、おじから性的加害を受けるビデオを教材として使用しているのは、町田市立の小学校教諭です。家族のきずなをゆがめる内容で、論評のしようがありません」と発言しています。論評しようがないのはお前じゃ! 実際性的虐待の加害者の多くは家族(特に実父)であるし、身体的虐待に比べて被害が表に出にくいという問題もしばしば指摘されるところです。それを無視して「家族のきずながゆがむ」だと? もうとっくの昔にゆがんどるんじゃ! 今でも虐待にあっている子どもがたくさんいるにもかかわらず、そこから目をそらしたり、心配するフリして実は自分の価値観を主張することに利用しているだけの人間が議員なんて、恐ろしい話です。たのむからとっとと辞めてください。いつも茶化して書いていますが、この辺りのことについては本気で怒っていますから!