「防犯ふくおか」を読んで・・・

福岡県防犯協会連合会発行の「防犯ふくおか」6月号が4ページ中2ページを使って性犯罪を特集。しかし・・・読んでいてブルーになってしまった。

長くて全部は書けないので、気になった箇所だけ抜粋。

まずタイトルは「女性の皆さん! 性犯罪に注意しましょう」。そしてサブタイトルに「性犯罪、『自分は大丈夫』と思っていませんか?」。
ああ、また女性への注意(本文中には「可愛い子どもさんをもつお父さん、お母さん」も含まれているが)を促す内容が中心か・・・とのっけからブルー(別に注意を呼びかけるのが悪いということではない。問題を感じる理由は後に述べる)。

最初に「性犯罪の発生状況」として、ここ3年ほどの発生件数(認知件数か検挙件数かは書いてないがたぶん認知件数)の推移や地区別の発生状況、被害者の年齢、発生時間帯、場所、犯行の手口等について紹介。犯行の手口の中の「携帯電話をしたり、音楽を聴きながら歩くなど、油断が見える女性を襲う」の「油断が見える」は必要なのか?

次いで、「被害に遭わないために」と予防の対策について紹介しているのだが・・・。

犯人は無防備な女性を物色しています。

性犯罪はおとなしそうで抵抗しなさそうな女性が狙われやすい、との調査結果もあったはずだが。もし、おとなしそうで抵抗しなさそうに見えること=無防備だとしたら、実際おとなしい人はどうすればいいのか。 

そして、「被害に遭わないための対策」がざっと21項目。これらをすべてやり、被害の状況も考えて対策しようとすると・・・
女性は夜一人歩きしてはならないし、男性と2人連れでも夜歩いては行けない(凶器などで脅されて拉致されるケースがあるから)。残業や飲み会はしない。どうしてもしなければならない場合はタクシーを使うか家族に迎えに来てもらう。防犯ブザーは常に手に持ち、マンション入り口や玄関の開場時は周囲を警戒。エレベーターに知らない男性と2人になりそうなときは乗らない。立つ位置は非常ベルのそば。マンション入居時は鍵を取り替えドアや窓には補助鍵をつける。カーテンは遮光カーテン・・・その他にもたくさん。
しかも描かれているイラストは通勤か通学の電車で痴漢の被害に遭っている女性のようだから、電車での通勤や通学も避けましょうってことになりかねないし、歩行中に携帯電話での通話や音楽を聴いていると「油断」と見なされる。中高生の被害は午後4時から午前0時の時間帯に制服で帰宅中が多いとのことなので、学校や塾に行くのもやめた方がいいってことかもしれない。

さらに「性犯罪のうち強姦は、顔見知りから被害を受けることが多い犯罪です。親しい間柄でない人とは部屋で二人きりにならないよう注意しましょう」(親しい間柄とはどの程度のことをさすのか分からないけれど、つまりデートレイプは眼中にないのかなあ。あと、碧猫さんとこに湧いたコメントによれば「女性の加害者のことも考慮しろ」だそうだから、女性を部屋に入れるのもいけないのかなあ)とか、「恥ずかしいと思わず、危険を感じたら大声で助けを求めましょう(とっさに声が出ないのは別に恥ずかしいからではないと思うんだけどなあ)とか、あんまり警戒しすぎると、今度は「たまたま方向に歩いてただけなのに痴漢と間違われた!」「自意識過剰!」と怒られるのかもしれず、とかいろいろ。

別に、被害に遭わないように対策を促すこと自体が悪いわけではない。それで避けられる被害だってあるかもしれないし(とはいえセコムしている家にだって泥棒は入るのだ)。けれども、上はオーバーに書いたけれども、被害に遭わないために被害者(予備軍)の行動が大幅に制約されるのは理不尽だし、普通に考えてすべての女性が対策をとるなんてことはあり得ないだろうから、単純にターゲットが他に向けられるだけかもしれない。
そして、「○○しないように××しましょう」という言い方は、発言者の意図とは関係なく「××しなければ○○されてもしかたない」という意味を言外に含みうる。被害に合わないための対策が強調されればされるほど、対策が十分でなかったと見なされた被害者はより責められることになるだろうことは容易に想像できる。対策をとっていたって被害に遭うことはあるし、対策をとっていなかったからといって被害にあって当たり前とはならない、という共通認識ができないと、結局は加害者を利するだけだと思う。

ところで、本文中に「福岡県でも昨年は平成15年のピーク時の半数近くまで(犯罪の発生件数が)減少しました。しかしながら重大な結果を招くおそれのある、強姦や強制わいせつなどの性犯罪はあまり減少していません」とある。
けれども犯罪統計の場合、認知件数=発生件数とはならない。たとえば平成14年の犯罪白書をみると、平成12年に各罪種の認知件数が急増してるが、これは前年に発生した桶川ストーカー殺人事件等の際の警察対応のまずさが批判されたことにより、それまで受理されなかったような事件が受理されることになったことが大きいと思われる。だからもともと暗数が少ないとされる殺人はほとんど変化がない。そしてもう1つ、他の罪種に比べて変化が小さいのが強姦である。性犯罪の場合は殺人とは逆に暗数が多いと考えられている(「防犯ふくおか」にも「実際の発生は、届け出の3倍とも5倍とも言われています」と書かれている)。これは推測だけれども、強姦の場合は警察の対応の善し悪しが直接に影響しにくい、つまり、そもそも届け出がなされないケースがやはり多く、そのため数値の変化が小さかったのだろうと考える。
だとすれば、性犯罪の認知件数が急激に減少するようなことがあれば返って心配な気がする。むしろ、性犯罪、特に強姦の認知件数は一時的には増加しなければならないのではないだろうか。予防を呼びかけるだけではなく、すでに起きてしまった性犯罪に対して適切に対処すること。「防犯ふくおか」の最後にも警察の対応して女性警察官の配置や相談電話のことが書かれてあるが、これらをさらに強化しアピールすること、加えて被害者が安心して届け出られるような状況(端的には被害者を責めない社会的コンセンサス)を作って行くことに、もっと注力されなければならないと思う。
そういう意味では、やはり予防ばかりを強調することには注意が必要だと思うし、増してや被害者の落ち度を責め立てるなんてことは百害あって一利無しだと思うのである。