人の死から学ぶ道徳?

昨日、某所で行われた辛淑玉氏の講演会に行った。その中で、「南三陸町で最後まで防災無線で避難を呼びかけた女性職員が亡くなった話、あれを美談にするなんて冗談じゃない。あんなに若くして亡くなって、どれだけ彼女が悔しかったことか。公務員は命をかけなきゃならないのか。教訓にするなら、両方が助かる方法を考えることでしょう」てなこと(細かい部分は不正確です)を言っていたのだが。

そして今朝。ラジオで「埼玉県で、南三陸町で最後まで防災無線で避難を呼びかけた女性職員の話が道徳の教材に掲載されることが決まりました」と聞いて脱力。

宮城県南三陸町の防災対策庁舎から防災無線で町民に避難を呼び掛け続け、津波の犠牲になった町職員遠藤未希さん=当時(24)=が埼玉県の公立学校で4月から使われる道徳の教材に載ることが26日、分かった。
埼玉県教育局によると、教材は東日本大震災を受けて同県が独自に作成。公立の小中高約千二百五十校で使われる。
遠藤さんを紹介する文章は「天使の声」というタイトル。
遠藤さんが上司の男性と一緒に「早く、早く、早く高台に逃げてください」などと必死で叫び続ける様子が描かれ、「あの時の女性の声で無我夢中で高台に逃げた」と語る町民の声を紹介している。

んで、その意図はこういうことらしい。

同教育局生徒指導課の浅見哲也指導主事は「遠藤さんの使命感や責任感には素晴らしいものがある。人への思いやりや社会へ貢献する心を伝えたい」としている。

自殺しようとした人を助けようとして亡くなった警察官の話を「偉い人の話」として広めようとしている団体があったり、どうして人が亡くなった話を使いたがるんだろうなあ。思いやりや社会へ貢献する心は、人が亡くならない話でも伝えられると思うのだけど。そもそも目の前に迫る極限状態の中で、遠藤さん、宮本さんが本当に使命感や責任感からそのような行動をとったのかも分からないのに。

そして、実は私はこの記事で初めて知ったのだが、防災無線で避難を呼びかけていたのは遠藤さん一人ではなかったらしい。少し調べてみたら、遠藤さんの上司にあたる男性もギリギリまで無線を離さず、津波にのまれて行方不明になられたとのこと。なのに遠藤さんばかりがクローズアップされるのはなぜかというと、きっと「結婚を目前にひかえた若い娘さん」てところが好まれたんじゃないかなという気がする。今回の教材の話だって、男性や年配の女性だったら「天使」なんてつけなかっただろうし。人の死から勝手に物語を読み込んで、「泣ける話」にしちゃう風潮にはちょっと辟易。