親子で童謡?

童謡歌いましょう 親子の触れ合い、発育に影響 厚労省研究班(産経新聞)


この記事を知ったとき今度は童謡かとウンザリしかけましたが、ちょっと調べてみると記事の見出しほど単純な話ではなさそうです。
この調査は厚生労働科学研究補助金を受けて2005年から行われている調査なのですが、その前段階の調査があったようで、その結果に基づいた安梅さんの話がヘルシストというサイトで紹介されています

夜間保育園が増えない背景には、さきほどふれた「長時間保育が子どもの発達に悪影響を及ぼす」という偏見、いわゆる“母性神話”が根強く残っているからだとされています。実証的な研究による根拠がほとんどないまま、一方的な思い込みによって、夜間保育についての理解と普及が阻まれてきたのです。長い間、質の高い保育サービスを提供してきた夜間保育園に対しても、こうした偏見が無理解を生んでいるのが現状です。
 そこで、厚生労働省研究班はこの“母性神話”が真実かどうかの科学的根拠を求めるため、全国夜間保育園連盟の全面的な協力を得て、連盟に加盟している60か所すべての認可夜間保育園、および併設の昼間保育園を利用する親子、そこで働く保育専門職員、施設長に対する調査を実施しました。

とあるように、一連の調査は「夜遅くまで保育園に預けるなんて、子どもがかわいそう……」「長時間、母と子が離れているのは子どもの発達に悪い影響がある」といった母性神話への批判的問題意識から出発しているようです。そして、この前段階の調査によって

保育園で過ごす時間の長さは、子どもの発達に関連する要因としては認められなかったということです。むしろ、「子どもの発達に適した育児環境が用意されているか」、「保護者に相談相手がいるか」、「保護者が育児に対する自信を持てる状況か」などが発達に強く関連していることが認められたのです。

子どもの発達にとって大切なのは、親子が一緒にいる時間の長さ(量)ではなく“育児の質”であることが実証されたのです。

これらのことが明らかになった、とあります。つまりこの調査では、「子どもが小さいうちは母親が家にいて子どもの世話をしないと子どもに悪影響が出る」という「母性神話」を否定する結果が出たということですね。そして、
保育は量より質が大事(長時間保育や預ける時期は問題でない)

子どもの発達、発育にとって望ましい保育の質とは具体的に何か
というところで今回の調査に進んでいったものと思われます。なので、史朗ちゃんやえり子ちゃんあたりがこの記事を引っぱってきて「最新の研究では母親が歌を歌ってあげることが〜」とか言ってくれたらおもしろいかも、とか思ったのですが(脳科学じゃないからダメかしら)、それはともかく。
それから、上のサイトによれば使用した設問は「童謡や子どもの好きな歌を一緒に歌えるか」というものであって、童謡に限ってはいません。今回の調査では多少設問を変えている可能性もありますが、厚生労働科学研究データベースの概要でも「家庭で歌を歌う機会が少ない」「子どもと一緒に歌を歌う機会がめったにない」という表現になっており、歌の種類ではなく「一緒に」歌うというところに重点が置かれているようです。おそらくアニメの主題歌なんかも含まれるのではないかと思われます。実際、この記事は共同通信の記事を産経と一部地方紙がほぼそのまま掲載しているようなのですが、産経以外の新聞はみな「山陰中央新報 - 子どもと一緒に歌をどうぞ 後まで心身に良い影響」という見出しになっています。これを「童謡歌いましょう」としちゃうところが産経らしいというべきでしょうか。ちなみにうちのように一緒に歌う歌が「She Loves You」とか「Separate Ways」の場合はどうなんだろうな。水伝的にはNGなんだろうけど。
とはいえ、この調査にも気になるところはあって、ひとつはこれは安梅さんご本人も指摘していることですが、サンプルが偏っていること。夜間保育の利用者全体では認可保育園利用者は少数派だと思われますし、全体でも271人というのはやはり少ないですね。(パネル調査だとサンプル数の確保は難しいと思いますが)。
もうひとつは解釈の問題なのですが、「家庭で子供と遊ぶ機会がめったにない」「一緒に歌を歌う機会がほとんどない」「家族で食事をする機会がめったにない」などの「めったにない」とは、「月に1度もない」ということのようです。「歌を歌う」については親や子どもの好みが関係する面も大きそうですが、一緒に食事をしたり遊んだりが月に1度もないというのは、「自然な形で歌を歌ったり、絵本を読んだり、食事をしながらお話ししたり、一緒に何かすればいいのです」というだけでは解決できない別の要因(経済状況とか、労働環境とか)がある可能性を考えるべきではないかという気がしました。