「現実」はひとそれぞれ、かもしれないけれども…

詳しい内容は書けないので分かりづらくなるかもしれませんが…。
先日、仕事の関係である人と話をしていて、「◎◎について、(上司から)具体的な内容は聞いていないんですよ」ということを伝えたら、別の日に「debyu-boさんが、◎◎について聞いていないといった、連絡がちゃんとできていないのではないか」というクレームが、さらに上の上司にきたらしい。その日に件の上司と私に直接話をすることもできたし、そもそも◎◎の具体的な内容について、私は必ずしも知っておくべき立場にはなかった(だから上司も私に伝えなかった)のだが、まあその人は「いったいわない」でよくトラブルがあるということは聞いていたので、上の方でもそれなりに合わせてくれたようだった。
そして別の日にたまたまその人と駅で会い、「お話は聞かれましたよね?」と尋ねられたので、どうも私に謝罪させたいらしい、という空気を感じつつ、半分すっとぼけて「あー、すみません、私の言い方が悪くて、◎◎の「具体的な内容」をを聞いていないっていったのが、「◎◎」を聞いていないって誤解させてしまったみたいで〜」といってみた。すると、「あら、そうなの? でも『◎◎について聞いてません〜』っておっしゃったから!」。


いや、いってませんから。いう理由がないですから。そもそも当時、私たちは「◎◎から発生した問題」について話していたので、私が◎◎を知らない、ということになると話自体が成り立たないんですが。


その後同じやり取りをもう1度したのだけど、その人は「でも◎◎を聞いていないってあの時いったし」と最後までつぶやいていた。私が明確に否定しても、また、そうでなければ当時な会話は成立しなかったという事実を前にしても、私が「◎◎を聞いていない」といったという彼女の「主観的現実」は今後も修正されることはないのだなあ、と思った。彼女に限らず「この人はどうして現実を見ないのだろう」と思ってしまう人が時々いるのだが、そういう人は現実を見ていないというよりは、見ている現実が違うのだということを改めて感じた。そして、相手は相手で、私に対して「どうして現実を認めないんだ!」と思っているのかもしれぬ。


とはいえ、やはり現実、というよりは事実をありのままに見ようとしない人もいるわけで。前回のエントリに対し、

最初の方の「〜思いますか?」の調査は、この結果を実際のデータと比較して事実と乖離している場合は、その原因と思われる所(マスコミ等)に改善を促すとかすれば非常に有効な気がするんですが……危機感を煽る事にしか使ってないんでしょうかね?やっぱり(汗)

というコメントをいただいた。コメントをくださったななしさんもおっしゃる通り、また、私も昔のエントリでちょっとだけ言及したように、「○○は増えていると思いますか?」などの設問は、人々の認識と統計的事実の乖離を測るとか(あるいは同じ調査の「身の回りで起こっている問題」についての設問では、率が高いのは「喫煙、飲酒」「乗り物盗」「万引き」という風に、同じ調査の中でさえ認識と現実(経験)が乖離しているとも読めるのだが)、人々の認識や世論へのメディアの影響力について検討するとかいう目的で行われるのであれば、それなりに意味はあると思う。でも実際にこういう調査がどう使われるか、調査の名称で国会の議事録を検索してみたところ、3件がヒット。



平成17年06月14日衆議院本会議 自民党 左藤章

また、本年一月に行った少年非行等に関する世論調査においても、重大な事件が以前に比べふえているとする国民が九割を超え、中でも、低年齢の少年による非行がふえている、また、凶悪、粗暴な非行がふえているとした国民はいずれも六割と非常に高い数値を示し、まさに少年非行の現状について大変深刻な状況にあると感じます。

という風に、少年非行の「深刻な状況」を示すものとして使用されている。また、


平成18年11月14日衆議院本会議 自民党 倉田雅年

昨年一月に内閣府が行った少年非行等に関する世論調査においても、重大な事件が以前に比べてふえているとする国民が九割を超え、中でも、低年齢の少年による非行がふえている、また凶悪、粗暴な非行がふえているとした国民はいずれも六割と、非常に高い数字を示しているのでございます。
 これに対しては、客観的な事実を反映していない単なるイメージではないかという意見も一部にあるようでございます。しかしながら、少年の身体的な発達の早まりに比し他人への共感性がはぐくまれていないなど、原因については種々考え方がございますけれども、十四歳未満の者を含めて低年齢の少年による凶悪な事件が後を絶たないことや、動機を理解することが極めて困難な事件も多数発生していることからしますと、このような国民の不安には十分な理由があり、まさに、少年非行の現状について、大変深刻な状況になっていると感じられるのでございます。

と、「客観的な事実を反映していない単なるイメージではないかという意見」もあるとしつつ、それは無視してやっぱり「深刻な状況」にもっていっている。


平成19年5月15日参議院法務委員会 法務省刑事局長 小津博司

少年犯罪の状況に関する国民の意識あるいは世論の調査といたしましては、平成十七年一月に内閣府大臣官房政府広報室によりまして、少年非行等に関する世論調査というものが実施されております。
 その内容を若干御紹介いたしますと、例えば、実感として少年による重大な事件が以前に比べて増えていると答えた方が九三・一%という結果でございます。次に、少年非行はどのようなものが増えていると思うかと聞きましたところ、低年齢層によるものと答えた方が六四・六%、凶悪・粗暴化したものと答えた者が六〇・一%と多うございまして、それ以前、平成十三年の十一月に同様の調査が行われておりますが、それぞれ約六ポイントほど増加しているという結果でございます。それから、非行少年の立ち直りに必要なことという問いにつきましては、年齢相応の社会的責任を取らせるということを挙げた方が四五・八%と、このようになっております。

これは淡々と結果を述べているようでありながら、この発言以前の自民党岡田宏議員とのやり取りを見てみると、

岡田 近年、人口に占める刑法犯の検挙人員の割合が増加し、あるいは強盗等の凶悪犯の検挙人員が高水準で推移しているということがありますけれども、これ具体的な数字がどうなっているのか、これは法務当局にお尋ねをしたいと思います。
小津 まず、少年人口千人当たりの刑法犯検挙人員、人口比でございますが、(中略)このような経緯を見ますと、近年の少年犯罪の動向には予断を許さないものがあると考えております。(中略)
 これを凶悪犯全体で見ますと、(中略)なお予断を許さない状況にあると考えているところでございます。
岡田 端的に伺いますけれども、少年犯罪の凶悪犯は増加をしているという理解でいいんでしょうか。
小津  少年犯罪の動向は予断を許さない状況にあるというふうに認識しているところでございます。

となっており、やはり「統計的事実」との乖離を示す様子は見られない。


なお、この「予断を許さない」という表現は、法務省では「深刻な状況」を意味するようだ。


平成19年の少年法改正に関するポイント Q&A (PDF)

Q2 少年犯罪は増加したり凶悪化しているのですか。
A 少年による殺人 、強盗 、強姦 、放火といった凶悪犯の発生件数は , 昭和 59年以降平成 8年まで1,000件台だったものが , 平成 9年以降は2,000件を超える年が続きました。平成16年,17年は2000件を下回っていますが,なお予断を許しません。また,近年,いわゆる長崎市幼児誘拐殺人事件 や佐世保市同級生殺人事件など,低年齢の少年による世間の耳目を集める重大 事件が発生しています。最近の少年犯罪の特徴として,少年がささいなきっかけで凶悪,冷酷ともいえる犯行に走り,動機が不可解で,少年自身なぜそのよ うな事件を引き起こしたのか十分に説明できない場合があるなど,従来の少年 犯罪との質的な違いも指摘されています。
このような点から,少年犯罪は深刻な状況にあると思われます。

要約:統計的にはシラネ。つーか減ってっかもしんねーけど凶悪化してるっつー前提で進めるんでそこんとこ夜露死苦