えーしーどっとじぇーぴー

以前ちょっと取り上げた「男脳・女脳」がまたふと気になって、検索とかしてたらこんなのにたどり着いた。

連名になっているが、おそらく三田雅敏さんという学芸大の先生がメインで書いたものだろう。紀要とはいえ、これはありなのか。ちなみにこの方、ウニやヒトデを使って性分化の研究をしておられるようであるが、脳については専門とは思えない。

また,多くの心理学者や脳生理学者は人の行動に対して, 明らかに男女差が認められることを指摘している。よく,女性は言語能力に優れ,周囲との協調性が高いと言われるのに対して,男性は視覚的空間認知能力に優れているとか,攻撃的であるといった特徴を持つと言われる。もし,これらが人間の個性あるいは多様性の延長線上にあるのなら,行動や思考パターンに男女間で違いがないはずである。しかし,仮に思考パターンに男女間で違いが認められたとしたならば,学校,家庭,地域,職 場など社会のあらゆる分野において,真の意味で男女平等を考慮した場合,思考パターン(脳の性差)も配慮すべきであると考える。そのような理由から,私達は男女間に思考パターンの違いがあるかどうか,明らかにする目的で,大学生を対象に思考パターンの男度・女度の調 査(男脳・女脳テスト)をおこなうことにした。

正直、言ってることがよく分からないのだが、とにかく「男脳・女脳テスト」を行うことにしたらしい。

男脳・女脳テストはピーズ夫妻著の「話を聞かない男, 地図が読めない女」(藤井留美訳)に掲載されている判定テストによっておこなった。

この時点でアゴが外れるかと思った。東京学芸大の教授が学術書でも何でも無い本に掲載されている怪しげなチェックリストに基づいて研究をするとな。
しかも、ここにテストの内容があるのだが、見るからに雑なつくりの設問と選択肢である。例えば、

映画館で座る場所は
   スクリーンに向かって右側。
   どこでもかまわない。
   スクリーンに向かって左側。

真ん中に座らせろや。

転職してまもないとき、新しい同僚のひとりから自宅に電話がかかってきた。あなたは…
   相手がすぐに分かる。
   しばらく話していると誰か分かる。
   声だけでは誰か分からない。

状況が限定的過ぎて答えにくい。

ところで上記リンクのテストを掲載しているページも「ac.jp」であった。いったいなんで大学関連のサイトにこんなものが?と思ってたどっていったら、聖徳大学の先生のサイトの「おまけ」コーナーにいろんな判定テストの類いが並べられていた。「あー、遊びのページね」とちょっとホッとしたのもつかの間、「私の場合、この本によって長年の疑問が解決されました。男と女とは本質的に異なる生き物なのです。」の記述に絶望した。

まー、結果として、男子学生の6〜7割は男脳タイプ、女子学生の5〜6割が女脳タイプということで、つまり男性学生の3〜4割は男脳ではない、女子学生の4〜5割は女脳ではない、ということですな。ていうか調査雑過ぎ。

その後で、ヒトの性分化について述べており、脳の性分化がどうたら書いているけれども、今回の調査結果とのつながりはまったく説明されていない。んで、こんなこと書いてる。

今回の調査結果は,明らかに男女の思考パターンに違いがあることを示した。これは,男女の思考パターンが二分されるということを意味しているわけではなく,男子学生に男っぽい思考パターンを示す傾向が高く,一方, 女子学生は女っぽい思考パターンを示す傾向があることを示したに過ぎない。しかし,そのことを「人間一人ひとりの個性あるいは多様性」と定義し,男女の思考パターンの違いを一切無視したものの考え方では,真の意味で男女平等を配慮したものとは,凡そかけ離れた物言いと判断せざるを得ない。

女子学生の半分が女脳的ではなかったのに、個々の思考パターンの違いを一切無視して「男」「女」で扱うことこそ乱暴じゃないっすかね。

一方,早稲田大学の女子学生も含めて本学女子 学生は男っぽい脳をもつ割合(16-21%)が高かった。 女性の高学歴化や社会進出に伴い,これまで男性の特徴とされてきた見栄や競争心を獲得することが現代社会への適応として働いているのかもしれない。

んじゃ、それは脳の違いじゃなくて環境の違いに起因するんじゃないっすかね。

最後に男女共同参画への提案とか書いているけど、笑止。ていうか、なんでわざわざこんな専門外のことに首を突っ込んでしまったものだろうか。

この先生の名前でググってみたら、以前帝京短期大学に在籍したようで、2001年に筆頭じゃないけど同じような論文(と表現するのもはばかられるが…)を紀要に発表してた。

やってることはまったく同じなのだが、こちらはますます意味が分からないよ。例えばこんなん。

しかし、本当に男は男っぽく、女は女っぽい思考パターンをするのだろうか? 実際に確かめてみる必要がある。
また、最近はダイオキシン環境ホルモンなど生きものの繁殖そのものを脅かす化学物質が私達の生活に広がりつつある。キレやすい性格や凶暴な犯罪が10代の若者にみられるのは、これら化学物質が脳の機能化に影響を及ぼしている可能性がある。以上の理由により、私達は在学中の短大生の思考パターンについて男度・女度を調べる男脳・女脳テストによる調査を行うことにした。

帝京短大の学生さんってそんなにキレやすくて凶暴なんですか。そして今回の調査は女子短大で行われているから対象は女子学生のみだー、ヒャハー。一応対照群としてW大の学生にも調査してるがなんと27人(うち10人が女子学生)だー、ヒャハー。

まー、結論は読んでもらうと分かるのですが、上の論文(と表現するのもはばかられるが…)とまったく同じです。5年以上の歳月が流れたとは信じられないくらいに。
んで、環境ホルモンはその後完全放置かと思いきや、最後の最後に驚きの記述が!

女性の高学歴化や社会進出にともない、これまで男性の特徴とされてきた見栄や競争心を獲得することが現代社会への適応として働いているのかもしれない(デジャブ?:ブログ主)。あるいは環境ホルモンや喫煙習慣などが女性の脳機能になんらかの影響を与えている可能性もあり、この場合将来が懸念される。

調べてもいない環境ホルモンや喫煙習慣への投げっぱなしの懸念キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

本当に、紀要とはいえなんでこんな専門外のでっち上げ論文を掲載したのか謎。こんなの名前入りで公開したら、ちゃんとやっているだろう(と信じたい)本業の研究もうさん臭く見られると思うんだけど。