エチカの鏡

先日、『エチカの鏡』という番組の「妊婦殺到! 江戸時代式出産法」とかいう見出し(うろ覚え)が気になったので、ちょっと観てみた。結局ながら観になってしまったし、妻がもうすぐ出産予定だという取材しているAD(?)の男性にその産院での出産経験者の女性たちが「ここに来て産んだらいいじゃないですか〜」「そうそう、それ撮影したら番組のネタにもなるし〜」とか言ってたことや、取材当日に急に出産に立ち会わせてほしいと言い出した番組スタッフなどに不快感を覚えてテレビ消してしまい(その日出産予定の人に「聞いてみるわ」と院長が言っているシーンまで観たが、その後どうなったのかは知らない)、結局ちゃんと観れなかったんですが。
この産院についてはid:NATROMさんが以前から取り上げておられた。

これを読む限り、やはりこの産院や院長の考え方にはいろいろと疑問を感じざるを得ない。
もちろん、昔ながらの出産を望む人がいることや、それを受け入れる施設があること、そのような産院で上手く出産できた人がそれに満足感を感じるということも、否定する気はない(ただ、やはり十分な安全確保のための体制は必要だと思う)。しかし、それが現代医療を否定(しつつ一部で利用)したり、現代医療による出産を貶めたりすることにつながるのはうさん臭さを感じる。「オニババ化する女たち」でも「自然な出産をさせる産院で産んだ人は、出産に対してポジティブになる」といったことが書いてあったが、そもそも現代的な医療・出産を行う病院/医院での出産が大半である現在において、そのような特徴的な産院を選ぶ人はもともとある種の傾向(現代医療に対する不安・不信や自然分娩志向など)を持っていると考えられるわけだし。
ただ、今回の番組について非常に危惧するのが、テレビの影響力の大きさである。以前のエントリで書いたのだが、この番組で盛んに取り上げられている横峯式を導入している長男の出身幼稚園では、来年度の入園希望者が殺到しているそうである。未就園児クラスに通ってる子とと在園児のきょうだい児だけでいっぱい、他県から転入してきた友だちのお母さんなどは、入園受付日の朝6時前から並んだにもかかわらずキャンセル待ちだったそうだ。園の近隣ではマンション建築が進んでいて子どもの数自体も増えていると思うので、それだけとはいえないとは思うが、他の園の状況を聞く感じではやはりテレビの影響がかなり大きいと考えられる。
しかし、幼稚園ぐらいであればそれほど大きな問題はないかもしれないが(とはいえ、たまたまお稽古ごとに熱心な保育園に通わせたら子どもがストレスを抱えてしまいあわてて転園させたという人も知っているので、楽観視してはいけないかもしれない)もし今回の番組を観て吉村医院で出産したいという人が出てきた場合(たぶん出てくるだろう)、そしてもし妊産婦や子どもの健康や命が脅かされるようなことがあった場合を考えると非常に不安である。番組スタッフは果たしてそこまで考えているのだろうか。あるいは「別にそのような出産を推奨しているわけではない」ということかもしれないが、番組の反響(横峯式の園への入園希望が増えているとか)については当然把握しているのだろうし、、妊娠・出産ということになればそれこそ命に関わることなので、「自己責任」で済まされる問題じゃあないだろと思うのだが。